「どうして瑞野さんが…?」
「あたしは、二村くんに呼び出されて…部長こそ、どうして…?」
二村―――……あいつも何を考えてやがる。
俺は眉間に皺を寄せた。それを不機嫌と捉えたのか
「あ、あの……お邪魔だったらあたし…帰ります。何かの間違えだったんですね」
と慌ててお辞儀をして立ち去ろうとする瑞野さん。
くるりと踵を返そうとしていた瑞野さんに向かって
「待ってよ」
俺は声を掛けた。
瑞野さんがゆっくりと振り返る。その振り返るときの髪の動きとか―――やっぱり瑠華と似ている、
だから似ている瑞野さんと一緒にいると、瑠華と一緒に居られる気がした。
それとも
瑠華に似ている瑞野さんじゃなくても良かったのかな。
俺は―――今、独りでいられなかった。
「一人で飲んでてもつまんないからサ、付き合ってよ。俺の奢りだから気にしないで」と言ったが「これってセクハラ、パワハラ…になんのか?」とすぐに思い直した。
「いえ、セクハラでもパワハラでもありません」
瑞野さんはきっぱりと言い切り、それは秘書としての口調だった。仕事中だったら、親父の近くにいるときはきっとこうに違いない。
「……って、すみません…あたし…何言ってるんだろ……。あの…こんなあたしでよければ…」
「男一人で居酒屋とか寂しいしね~、可愛い女の子が来てくれてちょうど良かった。何でも好きなの頼みなよ」
瑞野さんは二村に呼び出された筈なのに、俺が居て最初は戸惑っている様子だったが
俺がメニュー表を手渡すと、瑞野さんは向かい側の席に落ち着いた。
店員はまだすぐ傍で控えていて
メニュー表を開いたまま瑞野さんは
「えっと…えっと…」と慌てた様子で
「あ、じゃぁ部長と同じでビールを…」と頼むが
「無理しなくていいよ。ゆっくり選びなよ。
すみません、後からまた頼みます」
最後の言葉は店員に向けたもので、店員は「かしこまりました」と言って下がって行った。



