Fahrenheit -華氏- Ⅱ


にわかに信じられなくて、俺は乱暴に二村の方へタブレット端末を向けた。


「お前のやらせだろ。お前が瑠……柏木さんの名前を勝手に使って、彼女を陥れようとしてる」


二村は俺の睨みにも動じず


「俺にはここまでの腕はありませんよ。コネの人間もここまでは出来ませんでした。


ただ、興味深いことがありまして、このHPを造ったのが誰なのか、IPアドレスを辿って行くと




Cocone Bitou



に行きついたんですよ」



心音ちゃん―――……?



「まだ分かりません?柏木さんとマーズフェイスの尾藤CEOは結託して、裏取引をしようとしているんですよ。


表のオークションHPを隠れ蓑にして。


成功したら表のオークションよりも多額の金が入る。
表のオークションとは比べ物にならないぐらいに、ね。


今回の“取り引き内容”はこれ」


二村が画面をスクロールした先に行きついた画像に俺は目をまばたかせた。


「これ…?」


思った以上に間の抜けた声が出た。


出品名目に『Gasparo di Bertolotti』とタイトルがついていた。


ガス……?英語ではないことが分かったが、『これ』が売れるのか?


「それがマニアにとっては何十億?いや何百億ドルの価値があるそうですよ。


今現在、出席する旨の名乗りあげている富豪たちの一覧です。


調べたらどれも一流。



あなたも、柏木補佐に利用されたんだ」



瑠華に―――利用された……



俺はずらりと並ぶ富豪と言う名に目を通したが、そのどれもが記憶のどこにもない。


しかし一つだけ





Max Valentine




の文字を見つけて、目を開いた。


俺の表情をいち早く察知したのだろう、二村が


「何か思い当たるフシが?」と勝ち誇った笑みを浮かべている。


俺は慌ててValentineの表示から目を逸らした。


しかし目を逸らした先に―――


American west star :Managing Director Onoda


と書かれた文字も見て、


東星紡の―――小野田専務―――……?


そう言えば最近、瑠華は頻繁に小野田専務とやり取りしていた。


いや、参加者の小野田専務こそ隠れ蓑だ。



そして瑠華は最近になって、やたらとアメリカ企業とのオークション案件の仕事を多く持ってきた。


木を隠すなら森の中、ってことか。



瑠華の本当の目的は―――


この偽のオークションで、ヴァレンタインを……いや、マックスを引きずり出すつもりだ。


そう考えると心音ちゃんが手を貸した理由も頷ける。


大きさは分からないが、ヴァレンタイン兄弟に憎しみを持っている二人なら。