てか二村、あいつ場所指定してきてないじゃん。
当のご本人は帰ったのか、どっか行ってるのか隣のブースの席にも居なかった。
俺が覗き込んでいたとき、陰険村木とバッチリ目があって、思いっきり不審そうな顔付きで俺を見てきたが、俺はその視線を軽く流した。
これじゃ約束しても会うにも会えない。
それとも、やっぱり俺との約束は単なるあいつのからかいか?
PCを前に腕組みしていると
「ぶっちょう!♪」と背後からポンと両肩を叩かれて、俺は思わず飛び上がりそうになった。
「ぅを!に……二村…」
柄にもなく緊張しているんだろうな。思った以上にびっくりしたし、声も上擦った。
「何だよ、驚かせやがって」精一杯の強がりで立ったままの二村を睨み上げると
「こんなんで驚いてたら、心臓持ちませんよ~」と二村はまたも意味深に口元に笑みを浮かべた。
――――
――
二村に連れてこられたのは喫茶店じゃなく……
「ここ、居酒屋じゃん。お前嘘ついたのか?」
俺はちょっと洒落たしつらえの店構えの看板を見て眉間に皺を寄せた。
「嘘?」二村は首を傾げる。「まー、嘘っちゃ嘘ですけど。ここ完全個室なんで、誰かに話を聞かれる心配もないかな~って」と軽く言う。
「誰かに聞かれたらマズイ話なのかよ」
「まぁまぁ、そう焦らずに♪」と二村はマイペースに言って、さっさと店内の扉を開ける。
すぐに店員が来て
「あ、予約してた二村です」
「二村様ですね。二名様で」
「はい~♪」
二村が予約したと言った個室は店の最奥の部屋だった。確かにこの場所なら話を聞かれる心配がない。
「俺、ビール飲みます。生一つ。部長は?」と聞かれ
「俺は車だ。ウーロン茶一つ」ブスリと答えると
「じゃぁ生一つウーロン茶ひとつお願いしま~す」
「で、話しって何だよ」俺は飲み物が運ばれてくるのも待ちきれずせっかちに聞いた。「俺、この後ひとと会う約束してんだよ」
「人?柏木さんですか?」
「違う。昔のオンナ。“元銀座の高級ホステス”だったひと。その人が出入りしてる小料理屋で“トラブル”があったから来てくれって。その“店”元々俺が贔屓にしててそこの“オヤジ”とも仲がいいから」
と、俺は適当な嘘を述べた。勿論、紫利さんと会う予定なんてない。
「へぇ~銀座の売れっ子ホステスさんですか。さっすが色男ですね。俺なんか到底手に出来ないや。せいぜいキャバクラのミホちゃんぐらいかな」
「くだらない話をしに来たんじゃねぇよ俺は、二村、お前俺に何が言いたいの」
「まぁまぁそんなに焦らないでくださいよ。まずは乾杯ってことで」
程なくしてビールとウーロン茶が運ばれてきた。
「では、乾杯♪」と二村はジョッキを掲げたが、俺はそれをスルーして無言でウーロン茶をぐいと飲んだ。
「俺も暇じゃないんだ。早く用件を言え」
低く言い、二村を睨みつけると
「こっわい顔してますよ」と二村が震えるジェスチャー。
ドンっ
わざと大きめの音を立てて乱暴にウーロン茶のグラスをテーブルに置くと
「はぃはぃ、分かりました~冗談も通じないんですね」と笑いながら、二村は自分のビジネスバッグからタブレット端末を取り出した。



