Fahrenheit -華氏- Ⅱ



その後、二村は30分後に出社してきたようで


「お気に入りの喫茶店でコーヒー飲んできました。ついでに“予約”もしてきました。今夜7:30」と何故か俺たちのブースに顔を出し、にやりと笑う。


19:30―――…


意味深な笑みに俺は眉間に皺が寄ったが、瑠華はまるで気にして居ないようにひたすらパソコンと書類の間で視線をいったりきたり。


「ね、柏木さんも今度一緒に行こうよ~コーヒーが最高なんだ♪」と、フットワークも軽くサっと二村が瑠華の後ろに回る。


「行きません。興味ありません」瑠華の一刀両断の言葉にも堪えず


「そんなこと言わないで~」と二村はしつこい。


「二村」


俺は低く言った。


「お前は自分の部署に戻れ」
「Go home.」



俺と瑠華の言葉が重なり、二村は全然堪えてない様子で軽く肩を竦め、


「はいは~い」と軽く頷きながら、隣の部署に行った。


あれは俺に対しての“メッセージ、いや挑発”だ。今夜19:30に喫茶店で話をしよう、と。


二村の意味深な言葉を気にしながら、今日も一日が始まった。


瑠華と佐々木は昨日と同様テレアポ、俺は昨日、瑠華と佐々木が取り付けたアポの営業回り。


俺がアポで回った会社のほとんどがかなり乗り気で(よっぽど瑠華の営業トークがうまかったに違いない)


瑠華と佐々木、二人合わせて8社取り付けたが、結構なハードスケジュールだ。昼間コンビニで買ったサンドイッチを運転しながら車ぱくついて、またアポ営業の繰り返しだった。時間がいくらあっても足りない。


でも、二村との約束もある。早々残業もできない。時間はすでに定時の6時を少し過ぎていた。


何とか4社は回ったが、残りの4社は明日にするしかない。


それに営業先だって定時はあるわけで、遅くに押しかけていっても迷惑そうにされるだけだ。


諦めて社に戻ると


瑠華と佐々木もテレアポを終え「今日は4件でした」とそっけない物言いで瑠華が言い、一方の佐々木は「僕は三件とりました!」と勢いよく挙手。


パチパチ


瑠華が小さく拍手して、「佐々木さんは呑み込みが早いですね。とても努力家だし」と小さく微笑。


そう言われて佐々木は相当嬉しかったのだろう、「ありがとうございます!」と勢いよく瑠華にぺこりと頭を下げる。


いつも隙がなく、そっけないが、部下に対しての気遣いもフォローもしっかりできる瑠華はやはりやり手だと思う。


が、その一方で頭の良い女は計画的だが、それを隠す技にも長けている。


何を考えているのか分からない、




と、ちらり、と思った。




瑠華を疑う―――




なんて初めてのことで、少なからず俺は動揺した。