Fahrenheit -華氏- Ⅱ


「何か勘違いされたみたいだねぇ」と港支社長は朗らかに笑う。


かんちがい……も甚だしい!


俺はたちの悪いセクハラにでも合ってるのかと思ったが、考えたら瑞野さん全然嫌そうじゃなかったし……


もー!俺何やってンの!


顔から火が出そうだった。


「あの…お気遣いありがとうございます…それよりも腕…」


遠慮がちに瑞野さんに言われ、俺は自分が瑞野さんの腕を掴んだままだと言うことに初めて気付いた。


「ごっ!ごめっ!」慌てて離すと、瑞野さんもちょっと恥ずかしそうにしていた。


これじゃこっちがセクハラ野郎だぜ!


「すみませんでした」


「いやいや、久しぶりに来たから土産選びに付き合って貰おうかと思ったのです」とからいと支社長がやんわりと微笑む。


「会長のご子息の啓人さんで?」と聞かれ


「あ、はい!父がお世話に」


「いえいえ、お世話になっているのはむしろ私で、今日も港支社の今後の展開の指示を仰ぎに伺ったわけです」


嫌味じゃなく、そつなく、キビキビしているのに落ち着きがある。てか余裕ての?


てかどこまでも紳士だな。歳とったらこーなりたい!の理想そのものだ。


「では部長、あたしはこれで」瑞野さんがぺこりと一礼して、「あ、会長にも許可をしていただいています」と一言言い置き、車の中に入っていった。


「すみません、勘違いをしてしまい」と俺は同じく車に乗りこもうとしていたからいと支社長に頭を下げると


「いえいえ、従業員思いでいい部長です」とおっとり。


二人を乗せた車が走り出し、視界から消えると俺は思わずその場でずるずる。


やっちまったー……


けど、落ち込んでいたって仕方ない。


後から知った。からいとと言う感じは神来社と書くらしい。何だか名前までもかっこいいな。


頭の後ろを掻きながらブースに戻ると


佐々木は手振り身振りで電話をしている最中で、瑠華はちょうど電話を切るところだった。


再び背中に緊張が走る。


「ど…どう?」


と進捗を聞くと


「私の方は5件、佐々木さんは今のところ2件アポを取りました。私の方は相手企業がかなり乗り気でいらっしゃったので、あとは部長の営業テクに任せます」


5件!?


あの高額なオークションの(結局引き合いだけど)の話を取り付けたってわけ!?


俺、菅井さんの件でスキップしてる場合じゃなかった↓↓


「これ、お願いしますね」と瑠華は相変わらず隙の“す”の字もなく、俺に書類の束を手渡してくる。


「うん、ありがとね。今日は早めに帰ってくれていいよ」


心音ちゃんが居るしな、とは言葉では言えない。


瑠華も素直に


「ありがとうございます。お言葉に甘えて」


とぺこりと頭を下げる。