Fahrenheit -華氏- Ⅱ



その後は応接室に通され、女性社員が出してくれたお茶を貰うと、完全に二人きりになった。


どーする…俺


どーする!


……って、やること決まってンじゃん。


俺は、応接セットのテーブルにすっと書類の束を差し出した。左上でキチンとホチキス止めしてある。


「これは?」と菅井さんが不思議そうに首を傾け、それでも慎重な手つきで書類を手に取る。


菅井さんはしばらくの間、ぺらぺらと書類を捲っていたが、やがてぱちぱちと目をまばたかせ、やがて大きく見開いた。


「あの……これは…」


戸惑ったように問われ、


「アメリカの老舗家具店との取引です。アンティークと申せば宜しいのでしょうか。しかし、最近はで若いデザイナーも抱え込んでいて、古き良き時代のもの、そして誰もが息を呑むような斬新なものまで幅広くそろえています。


真咲……さんは、アザールにしか出せない独特の染めや織のある生地をお求めになられていたのですが、こちらも充分に御社の意向に沿っているかと」


「Mother’s gate。すっごく大手ですね。それこそ分不相応な気がいたしますが」


菅井さんはちょっと眉根を寄せる。本当に可能なのか、と目が語っている。


「こちらはオークション形式ですが、場合によっては引き合いも可能です。ご希望の金額を提示していただいたのち、あとは柏木がバンニング致します。現時点、引き合いも掛かっていない状態です。お早いご決断を」


俺が説明すると


「柏木さんが…なる程。やり手ですものね」と菅井さんはちょっと微苦笑を浮かべる。


俺だって同じ気持ちだ。


菅井さんとはプライベートでも仲良く(?)なったわけだし、俺自身が手掛けたい案件だが、瑠華に任せた方がスムーズだし、何より確実だろう。


「神流様のお気持ち、大変嬉しく思っています。まずは上の者に相談して…」


菅井さんは言いかけて、ちょっと目を伏せると


「いいえ、やはり真咲に……満羽に一番に報告いたします」


俺は、ほぅっと息をついた。


「ええ、そうしてください。


あいつ―――真咲は、喜ぶと思います」


小さく笑むと、菅井さんは深く腰を折った。


「きっと喜ぶと思います。ありがとうございます」