啓は、村木さんのこと“陰険”と言うけれど、このひとはただ不器用なのだ。とても―――
そして
「まずは結婚後のライフプランを図にして提示してもらい、その際にお互いの収入が幾らで、幾らで生活できるかを…」
とブツブツ言っている村木さんに、何故だか笑いが込み上げてきた。
このひとは真面目過ぎる程、真面目なのだ。
と言うことにも気付いた。
「何を笑ってるんですか」
村木さんがちょっとムっとしたように眉間に皺を寄せ
「いえ、ちょっとそれって稟議書に似てるなって」
「稟議書ですよ。決済するのは私ですが」
「良い結果をお待ちしてます」
あたしが小さく笑むと、村木さんも同じ笑みを返してきた。
「娘の結婚式の際―――あなたを招待しても宜しいですか?」
「もちろんです。ただ、招待状やドレスのこと、口出しされない方が宜しいですよ?」
「あなたは―――招待状やドレスのことで口出しされたことが?」
と聞かれ、ちょっと苦笑いを浮かべ肩を竦めてみせ
「私のほうではなく、向こうの、ですね」
それは言うまでもなくヴァレンタインの魔女、ジェシカの指示だった。
セントラル紡績さんが最初望んでいた取引先のアザールは、そのときあたしがドレスとして纏ったものの次の候補だった。
確かにアザールの繊細な刺繍や、体のライン、流れるようなベールは全て花嫁の美しさを際立たせる、まさに一点物。
あのドレスは確かにステキだったけれど、あたしの意見もあったのに、ジェシカが全て反対して、結局ローズウッドに決まったのだ。
「あなたはジェシカのようにはならないで」
あたしは一言言い置いて、立ち上がるとタバコの先を灰皿に押し付け
「では、これから私休憩に入るので」
と小さく挨拶をして、
「ジェシカ?」と村木さんは不思議そうに目をまばたきし
「ただの魔女です」とあたしが返すと、村木さんは益々難問を目の前にしたかのように眉間に皺を寄せた。
でもあたしは確信している。
村木さんは―――梨々花さんと、そして画家の彼の良き父親である、と。
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