「いいえ…私は何も……ただ、昔の自分とお嬢様の姿が重なっただけです。ただの経験談を―――話しただけです」
村木さんは片手で持った缶コーヒーを一口、口にしてそれ以上何も聞いてこなかった。
「聞かないんですか、どうしてそうなったのか」
“興味がない”と言う言葉を想像していたが
「あなたの過去を知っても―――私には何もできない。力になれない、それを充分に分かっているからです」
何も―――できない……
そんなことはない。充分にしてもらった。たった今。
たった一言、あたしの言動で誰かを動かせるのなら、それだけであたしは充分。
「でも、これだけは言わせてください。安心してください。私は決してあなたの過去を言いふらすことがない、と」
「ええ、信じていました」
はっきりと言い切ると
「何故?」と村木さんは不思議そうな顔をした。
「ただの勘です」あっさり言うと、
「なるほど、女の勘と言うのは当たりますからね」と村木さんはまたもちょっと笑った。
「神流部長とあなた、結構お似合いですよ」
今度はあたしが笑う番だった。
「何が可笑しいのですか」と村木さんは仏頂面で聞いてくる。
「いいえ、ただあなたに認められるとは思いも寄りませんでしたから」



