Fahrenheit -華氏- Ⅱ



今日の村木さんの様子は――特に変わらずだった。それとなくブースを出てコピーを取りにいった際も目も合わなかった。相変わらず熱心に仕事をしていた。


村木さんがあたしの過去を周りに吹聴して回るタイプではないのは何となく分かる。


けれど、怒りは果たして村木さんへ向けられたものだろか。


過去の自分に―――


どうしてもっと頑張れなかったのか。踏ん張れなかったのか。


考えたところでもう元には戻れない。


それに





もう、戻りたいとは思わない。


だったら突っ走るのみ。


どこへ行こうか考えをまとめる為……と言うか行くあてがなく何となく喫煙ルームに入った。


女性事務員の社員が二人いて


「あ、お疲れ様で~す…」と言いながら、彼女らはそそくさと出ていってしまった。


まるでモーゼの十戒のようだ。


あたしが行くとこ、歩くとこ皆が避けていく。


前まではそれ程気にならなかった。いえ、今もあまり気にしていない。


でも―――こんなあたしを


啓は受け入れてくれた。


佐々木さんも。


今は緑川さんにも頼られている。


あたしは―――、独りじゃない。


タバコを取り出して、ついでに携帯を取り出すと、着信の報せの緑色のランプが点滅していた。


携帯を開くと


不在着信:紫利さん


になっていて、あたしは慌ててコールバックをした。