桐島は自分の分だけじゃ飽き足らず俺の麻婆豆腐の味見をしたいと言って蓮華を奪っていった。
ま、いいけど。一口二口なら。
「てかさ~桐島、お前調理師免許持ってんだろ?何でわざわざ神流グループの外食事業部になんか」
聞けば、なんか良く分からないけれど有名な調理コンテストで優勝したとか、なんとか。本人から聞いたわけじゃなく、どっかから聞いた。
「お前程の腕があったらどっかの有名レストランとかで働けるんじゃない?」
ふと気になったことを聞くと
「有名レストラン?」桐島が蓮華を口にして目だけを上げ、
「興味ない」とあっさり。
「じゃぁ何で調理師学校なんて入ったんだよ」思わず突っ込むと
「他にやりたいこと無かったから」と桐島は再びあっさり。
「な、何か桐島主査って……なんて言うか天然?的な?」佐々木がぼそっと俺に囁いてきて、それでも
「何でこの会社に?」と気長な質問をしていた。
「うーーーーーーーーーーーん、何でだろ」
桐島は腕を組んで考え込む。
長考か?
桐島が悩んでるうちに料理が冷めちまう。俺はいそいそと蓮華を動かしていて、桐島のペースをあまり知らない佐々木が
「やっぱ桐島主査って……天然て言うか…謎?ですね」と佐々木は桐島に聞こえない程度にこそっと囁く。
「かもな。柏木さんと違った意味で俺はあいつのことが分からん」
こともなげに言うと、佐々木は桐島と一緒に「う゛ーん」と唸った。
やがて考えがまとまったのか桐島はぱっと顏を上げて
「料理は好きだけど、俺はメニュー開発もしたいし、それを売り込む営業もしたいし、たまにグループの居酒屋に借り出されるけど、意外に接客も面白いし」
あー…あったね、そゆうこと。確かあれは経理部との合同飲み会のとき、人員不足で桐島がホールに入ってたね。(Fahrenheit参照)
桐島は顎に手を置き宙を見上げる。
「要するに、俺は欲張りなんだよね。あれもやりたいけど、これもやりたいって。
その道一本だけじゃなく、何本の道をあちこち歩いて色んな景色を見て、色んな発見をしたい」
桐島の言葉は、たまに意味不明なことがあるけどいつもどっか一本筋が通っていて、本人は『欲張り』と言ったが、その例えは良い意味に聞こえる。
何となく……あらゆる事業の中でも特にハードな外食事業の中生き残った桐島の本質が分かった気がした。
桐島も―――仕事が好きなのだ。
「佐々木くんの天津はちょっと甘みが強いね。オイスターソースと鶏ガラを少し多めにしたらもっとうまくなると思うけど」と佐々木にこそっと耳打ちしている桐島を見て
好き―――……なのか?
単にこいつは“食”が好きなだけが気がする。
けどその『好き』て気持ちを仕事に活かせるんだったら、ホント最高だよな。



