Fahrenheit -華氏- Ⅱ



瑠華―――……


俺は……瑠華の気持ちを痛い程知ってるし、俺自身絶対誰にも彼女の秘密を打ち明けるつもりはなかった。きっと瑠華自身もそうだったに違いない。


あんなに親しくしている綾子ですら、きっと知らない事実だ。




瑠華は―――怒っていたのだろうか。


いや―――きっと……すごく悲しかったのだろう。


泣きたい程、叫びたい程。


ずっとずっと辛い現実―――それは一生彼女に付き纏い、消えることのない痛み。


それを“怒る”と言うことで過去を露呈すると言うことで必死に仕舞いこんだんだ。


「「………」」


後に残された俺と村木。


はぁ


俺は大きなため息をはいて、背もたれに深く背を預けた。


瑠華にあんなこと言わせたかったわけじゃないのに。


「神流部長…」


村木がおずおずと声を掛けてきて


『あ?』と聞き返したかったが、目だけで村木を見据えた。訂正、睨んだ。


「あなたは柏木補佐のそのことをご存じだったわけですか」


「…まぁ」と俺は曖昧に返した。


「それでいて彼女と?」


「……まぁ」またも曖昧な答えになってしまったのは、どこまで瑠華とのプライベートを話して良いのか線引きが難しかったから。


「はぁ……」今度は村木がため息を吐く番だった。


それでも瑠華の意思は尊重したい。


「言いたければどうぞ。でも柏木さんが言った通り、彼女はそれだけでへこたれる女じゃありませんよ」


一応、釘をさしておくと


「言いませんよ。そもそも私に親しく話しかける社員も居ないんでね」


分かってんじゃねーか。嫌われ者だってこと。


「言ったところで私の損にも特にもならない」


「俺だってあんたの家の事情を喋っても損にも特にもなんない」


朝イチから疲れたってのもある。思わず素で言ってしまうと


「ではお互い、この件に関してはオフレコと言うことで」


村木は残ったコーヒーをゆっくりと飲み干した。