Fahrenheit -華氏- Ⅱ



「あたしはつい最近まで前の夫との結婚を“失敗”だ、とか“汚点”だと思っていました。でも違った。


失敗したからこそ、次は失敗しないであろうとひとと出会えた」





瑠華は俺の重ねた手を…指を、をきゅっと握り返してくれた。


その視線はさっきの険しいものではなく、一瞬……ほんの一瞬だけだがゆるくなった。


けれど瑠華は力強く俺の指を握りながら、またも目を吊り上げる。冗談で睨まれることは良くあるがそれとは質もレベルも違う。


その視線はまるで鋭利な刃物そのものだった。


「村木さん、もしお嬢様がこの結婚で“失敗”したのなら、あなたは彼女を突き放すのですか?


ここまで手塩をかけて育てられたお嬢様を、温かく抱きしめてあげることはしないのですか?


想像できませんよね、そんなこと」


やっぱり、最初に感じた通り。小さい男。


瑠華は最後に吐き捨てるように言い、俺の手をそっと反対の手で離すと


「I told you.(言ったでしょう?)You said you buy expensive.(高く買うって)」


と言いながら立ち上がり


「私の過去を言いふらしたければどうぞご自由に。こざかしい小娘を蹴落とすのはさぞ痛快でしょうね。


でも私は蹴落とされる程、





弱くはない」


瑠華はテーブルに伏せられた伝票をさっと手にすると、


「それでは、仕事が残っていますので」とさっきの怒りをすっかり仕舞いこみ、いつも通りの無表情に戻り、俺が止める間もなく、さっさとレジに向かい会計を済ませると、来たときと同じようにドアベルを鳴らし、颯爽と出ていってしまった。