Fahrenheit -華氏- Ⅱ


しかし、俺だってどう会話を切り出して良いのか分からない。


沈黙が流れ、やたらとコーヒーカップに口をつけたせいか、早くも半分程に減った。


ち…沈黙が重い。


このびみょ~~~!な雰囲気を何とかしたくて


「やっぱ、話し合った方がいいんじゃないですか?もっとちゃんと娘さんの意見を尊重するとか」


俺が何とか切り出した。


暗に『俺と見合い』とか勝手に言わないでくれ、と含ませて。


「村木さんの奥様はお嬢様の件で何と仰っているのですか」


俺の言葉をきっかけに瑠華が聞いた。


そうだ…そうだよ。俺は村木の奥さんの気持ちのこと全然考えてなかった。


「家内は……娘の意思を尊重したい……と」


ふーん、てことは反対してるのは村木だけってことか。


「多数決で、もう許してあげたらどうですか?」俺が軽い調子で言うと


「多数決で大切な娘の人生を決めろ、と言うのですか」と村木が険を込めた目で俺を見てきて、俺も眉をしかめた。


そんなつもりで言ったわけじゃない。


好きな男と結婚したい、そう言う娘も強固な意思を何故反対するのか。


当たり前の感情だろ?何で分かってやれねぇんだよ。


「大体、あなた方は無責任過ぎる。


柏木補佐、あなたは昨日『失敗すればいい』と言いましたね」


村木の言葉に瑠華は静かにコーヒーを一口飲んだ。その表情には少しも変化を感じられなかった。眉ひとつ、頬の筋肉一つも動かすことなくただ黙って村木の話に耳を傾けているようだった。


ちょっ、ちょっと村木!今、その話題をほじくり返すのは。


さっきまで村木に嫌気がさしていたが、今は瑠華が爆発するのを止めるのが先決だ。


俺は何とか村木の言葉を止めたかったが、止める隙もなく村木は喋り続ける。


「結婚生活は稟議書類のミスのような簡単なものじゃない。


結婚生活が失敗すると言うことがどんなに大変なことか、あなたは分かっているのですか」


瑠華はコーヒーのカップをやや乱暴……と言うと大げさだが、少し力強くソーサーに置いた。


その節に黒に近い深い茶色の液体がゆらりと揺れ、それでもカップの淵からこぼれることなく何とか留まった。


だが、またすぐにコーヒーカップに口を付け、黙って村木の話を聞いている。


「大体、あなたには子供がいないから、そんな無責任なこと簡単に言えるんでしょうけど。あくまで私たちはあなた方からしたら他人ですからね」


むっ、村木っ!!


今度こそ声が出そうになったとき


カシャンっ…


少し大きめの音を立て瑠華がコーヒーカップを再びソーサーに置いた。


今度はカップの淵で液体が止まることなく、その勢いで中身がこぼれた。