Fahrenheit -華氏- Ⅱ



村木が連れてきた喫茶店てのはちょうど会社の裏手にあって、細い路地にひっそりと位置していた。


6:30オープンの店で、当然ながら客は俺たちしかおらず


ドアベルが鳴ると、店員…と言うかマスターっぽい中年男が一人意外そうに目をまばたきながらも「いらっしゃいませ」と席に促す。


「ホット(コーヒー)を三つ」


てか俺たちの意見を聞けよ!とちょっと思ったが、瑠華は相変わらずの無表情で村木を見据えていた。


「ところで、村木さんは何故私があの時間に出社するとわかっていたのですか?」


瑠華が無表情に、淡々と聞き


「あなた方と同じ方法ですよ。特にお二人は出社が早いことを知っていたのでね、待ち伏せって言うやつです」


待ち伏せ!さっすが陰険だな。


「ところで話と言うのは」


と『待ち伏せ』発言を気にした様子もなくすぐに瑠華が切り出し


「いえ、昨日はみっともない所をお見せして申し訳ございませんでした、と一言お詫びに」


と村木は俺たちを眺めながらちょっと頭を下げる。


何だか拍子抜けだ。


こうもあっさりされるとは。


「いえ、こっちも勝手に勘違いして後を尾けていく無粋な真似をして…」


謝りたくなかったが、顔を引くつかせながらなんとか言い切った。


てかお前が思わせぶりな行動するからだよ!


「この場合、お互いさまということで、その件は水に流しましょう。


それで、その後、お嬢さんとは?」


瑠華の力強いまっすぐな声に、村木はバツが悪そうに視線を逸らす。怯んだようにも見える。


「どうもこうも、家に帰っても目も合わせませんでしたよ。今朝は私の方が早く出てきたので」


なるほど、無視されたくちか~


ぷくく、憐れ村木。


笑いを堪えていると、香高いコーヒーが三つ運ばれてきた。白い陶器は柄も何も入ってない素っ気ない…いや、シンプルなもので、だからこそコーヒーの香りの良さがより引き立っていた。


一口、口に付けると、それは村木が言っただけある。コクと苦みが絶妙で旨かった。


「お嬢さんはご実家でお住まいなのですか?」瑠華がまたも聞き


「ええ、そうですが。良い歳した娘が実家暮らしなこと、いけませんか」


「いいえ」瑠華はあっさりキッパリ言い、聞いた本人はその言葉に大した意味もなかったのか、コーヒーに口を付け、やはりそのコーヒーの味が良かったのか「おいしい」と一言付け加えた。


それを見届けた村木は満足そうに少し笑い


「柏木補佐は一人暮らしですか?」


と今度は瑠華に聞いていて、おい!村木っ瑠華が一人暮らしか聞いてどーするって言うんだよ。


は!まさかのストーカー!?


あわあわと口元に手をやっていると


コホンっ…


小さな咳払いが隣から聞こえ、ちらりと横を見ると瑠華が顔をしかめていた。


あ、真面目に話を聞けってことね…