Fahrenheit -華氏- Ⅱ



シャワーヘッドから落ちる水滴はまるで雨を思わせる。


冷たい雨に打たれながら、それでも互いに温め合う。俺は床に倒した瑠華の腰に腕を回し、瑠華は俺の頬に手を伸ばす。


瑠華の栗色の長い髪が、シャワーの水滴がまるで美しい滝のように流す。





「きれいだ」





俺は瑠華の頬に手を置き、そっと囁いた。


瑠華は―――


俺の言葉に切なそうに眉を寄せた。


「あなただけ……」


瑠華はシャワーの音にかき消されるような声で囁き







「今度は、


いいえ……





あなただけは、必ず守ります。


あなただけは、手放したくない」






瑠華の目尻に水滴が溜まっていたが、それが瑠華の涙なのかそれともシャワーの水しぶきなのか俺には分からなかった。


手放したくない、と言うのは素直に嬉しかったが




守る―――……?




俺としては瑠華のことを守る方に回りたいのに。


だけど―――


このときの瑠華の言葉の本当の意味も


分からなかった。




けれど


このとき俺を求めてくれた瑠華は、言葉通り俺を守るような力強く、そして優しく、甘く―――


俺たちは降り注ぐシャワーの中抱き合った。



――――


――



「シャワー……止めなくていいんですか」


情事の後、脱衣所でバスタオルで身体を包みながら、濡れた髪先から水滴をしたらせながらちょっと心配そうにバスルームを覗いている瑠華。


「大丈夫、ダイジョブ!風呂の湯とシャワーの湯を一緒に出すと湯が早く溜まる仕組みだから」


と俺は軽く笑ったが、瑠華はちょっと疑っているように目を細める。けれどそこには悪戯っ子を窘める母親のような甘く、そして優しい笑みを浮かべていた。


俺が何故、バスタブに向け、シャワーを流しっぱなしにしたかと言うと


俺の部屋のバスルームに瑠華が使っているシャンプーを置いていなかったことに関係している。


俺は―――できれば、瑠華の使っているシャンプーやらボディーソープやら、それこそ歯ブラシとか置いて欲しい。


同棲してるわけじゃないが、そこいらに彼女の影を見つけて幸せになれる気がした。


けれど、俺は瑠華にそれを強要したことがない。瑠華も置いていきたいと言わない。


「置いていけば?」って言ったら


『イヤです』とか言いかねないだろ?


何と言うか……瑠華は自分の足跡を他人に残したくない。


最近になって言葉で『好き』とちゃんと聞いたし、行動にも現れてると思う。


けれど本心はきっと、『好き』と言う言葉に追いついてないんじゃないか―――心の奥底で不安はいつもくすぐっている。


流れ落ちるシャワーのように、俺の不安を流してくれればいいのに。


シャワーを流しっぱなしだったのは、俺の不安をちょっとでも薄らがせる為。


俺は―――いつでも瑠華に対して臆病だ。