シャワーヘッドから落ちる水滴はまるで雨を思わせる。
冷たい雨に打たれながら、それでも互いに温め合う。俺は床に倒した瑠華の腰に腕を回し、瑠華は俺の頬に手を伸ばす。
瑠華の栗色の長い髪が、シャワーの水滴がまるで美しい滝のように流す。
「きれいだ」
俺は瑠華の頬に手を置き、そっと囁いた。
瑠華は―――
俺の言葉に切なそうに眉を寄せた。
「あなただけ……」
瑠華はシャワーの音にかき消されるような声で囁き
「今度は、
いいえ……
あなただけは、必ず守ります。
あなただけは、手放したくない」
瑠華の目尻に水滴が溜まっていたが、それが瑠華の涙なのかそれともシャワーの水しぶきなのか俺には分からなかった。
手放したくない、と言うのは素直に嬉しかったが
守る―――……?
俺としては瑠華のことを守る方に回りたいのに。
だけど―――
このときの瑠華の言葉の本当の意味も
分からなかった。
けれど
このとき俺を求めてくれた瑠華は、言葉通り俺を守るような力強く、そして優しく、甘く―――
俺たちは降り注ぐシャワーの中抱き合った。
――――
――
「シャワー……止めなくていいんですか」
情事の後、脱衣所でバスタオルで身体を包みながら、濡れた髪先から水滴をしたらせながらちょっと心配そうにバスルームを覗いている瑠華。
「大丈夫、ダイジョブ!風呂の湯とシャワーの湯を一緒に出すと湯が早く溜まる仕組みだから」
と俺は軽く笑ったが、瑠華はちょっと疑っているように目を細める。けれどそこには悪戯っ子を窘める母親のような甘く、そして優しい笑みを浮かべていた。
俺が何故、バスタブに向け、シャワーを流しっぱなしにしたかと言うと
俺の部屋のバスルームに瑠華が使っているシャンプーを置いていなかったことに関係している。
俺は―――できれば、瑠華の使っているシャンプーやらボディーソープやら、それこそ歯ブラシとか置いて欲しい。
同棲してるわけじゃないが、そこいらに彼女の影を見つけて幸せになれる気がした。
けれど、俺は瑠華にそれを強要したことがない。瑠華も置いていきたいと言わない。
「置いていけば?」って言ったら
『イヤです』とか言いかねないだろ?
何と言うか……瑠華は自分の足跡を他人に残したくない。
最近になって言葉で『好き』とちゃんと聞いたし、行動にも現れてると思う。
けれど本心はきっと、『好き』と言う言葉に追いついてないんじゃないか―――心の奥底で不安はいつもくすぐっている。
流れ落ちるシャワーのように、俺の不安を流してくれればいいのに。
シャワーを流しっぱなしだったのは、俺の不安をちょっとでも薄らがせる為。
俺は―――いつでも瑠華に対して臆病だ。



