Fahrenheit -華氏- Ⅱ



はぁ!?


どーした村木……明日は雨か?いやいっそ槍でも降ってくるかも…


あわあわとしていると


「これでも自覚してます。迷惑を掛けている、と」


「いえ……俺こそ…話盗み聞きして、しかも勘違いして尾行してきたんで」


何も言えません、と言う意味で肩をすくめると、会話は途切れた。


瑠華に席を外してもらった方がいいかも、と思ったが、実際二人きりになると何を話していいのか分からない。って言うかこいつと二人きりで話す内容もない。


急に口数が減った俺たち二人はどこかよそよそしく落ち着きがなかった。


やっぱ早く戻ってきてくれないかなー……と思いながら、空席の瑠華の椅子を眺め、何となく……思い浮かんだ顔の名前を挙げる。


「そう言えば…川田さんと会いましたよ」


「川田くん?」


村木が珍しいものを見たように目をぱちぱちさせ


「あー…ちょっとした所用で青山にあるクリニックで……」と説明を添えると


「ああ。元気でしたか?」と村木が少しだけ気を許したように聞いていた。


「ええ、まぁ。お元気そうでしたよ」


「……そうですか」村木はちょっとほっとしたように胸を撫で下ろし


「聞きましたよ。川田さんの本当の退職の理由」


「実家のトラブルと言うことを?」


「ええ……あなたが親切に相談に乗ってくれてたってことも言ってました」


「……いや、それ程大したこともできず。結果、彼は退職と言う形をとらざるを得ない状況でしたからね」


「でも、噂じゃあんたがパワハラして、それに耐えれなくなった川田さんが病気になって退職した、と周りは思いこんでますよ」


はっきりと言ってやると


「別に、そう思いたければ思わせておけばいい」と村木は表情のない顔で呟いた。


「誤解されたままでいいんですか?」


「誤解も何も、本当のことを知ったら川田くんの状況が良くなるんですか?だったら幾らでも誤解を解きますよ。


けれどそれによって、もしかして彼が不利な状況に陥るかもしれない」


「実家の財産分与のことでもめ事起こしてるって?知られても川田さんに不利なことはならないでしょう?」


「そうゆうものじゃないですよ。世間は…川田くんを見る目は変わってくる。本人はそう望んでなくても否応なく、ね」




本人は望んでなくても否応なく―――か。




それは瑠華にも当てはまる。


だから俺は瑠華が離婚して子供まで居るってこと誰にも言えないでいる。