トン……
瑠華が空のグラスをテーブルに置き
「すみません、お代わりを」と頼んでいる。その反対側で村木も手をあげた。「私も」
何だか飲みペースの競争をしているような……
俺は村木と会社の懇親会以外飲みに行ったことがないから、こいつがどれだけ飲めるのかはっきり分からない。まったくの下戸ではないことは確かだが。
瑠華に付き合ってると潰れるぞ、と言う意味でちょっとハラハラした面持ちで眺めていたが、その疲れ切った横顔に『酔い』の文字は見つからなかった。
「いっそ酔ってしまいたいですけどね」
と村木は、新しいグラスを手の中で包み込み小さく吐息。
それはいつか聞いた―――瑠華の言葉と同じものだった。
まるで嫌なものを一緒に呑み込んでしまいたい、と言っているようで……その表情は疲れ切っている。
「認めてさしあげたらどうです?お嬢さん……あのままだとお父様であるあなたを一生恨み続けるかもしれませんよ」
瑠華が言い
「恨まれたってかまいやしない。失敗するよりいいじゃないか」
と村木が返す。
「失敗―――すればいいのです」
瑠華がここに来てまたKYな発言をして、俺は目を剥いた。
ちょっ……ちょ!瑠華ちゃん!
俺だって村木んところの家庭の事情ってのは知らないし、首を突っ込むつもりはないけど、でも疲れ切ってる村木にこの発言はちょっと……と思う。別に村木の味方してるわけじゃないけど、火に油を注ぐって言葉知ってる!?
村木のことだから、またいつ爆発するか分かったもんじゃないからな。大体にしてこいつの行動や言動は予想不可能。
俺一人がハラハラしていると、案の定村木が眉を吊り上げた。
何かを言う前に瑠華が
「失敗して分かるものです。そうやって成長していくものです。
失敗したからって死ぬわけじゃありません」
「確かにそうだが…」と村木が言いかけ「でも無責任じゃありませんか?その発言は」と村木が瑠華を睨む。
「いいえ無責任じゃありません。私も―――……」
瑠華はその後に続く言葉を仕舞いこんだ。
瑠華は―――KYでも無責任でもない、と。何度直面させられても未だに遅れてくる認識。
そう―――なのだ。
瑠華は一度失敗をしている。それは彼女が辿ってきた道だから、失敗しても次があるってこと、彼女自身が証明したから、だから言えることであって。
いい加減、瑠華の発言のタイミングと内容に気づけよ俺。
成長
しないなぁ。
男って―――



