Fahrenheit -華氏- Ⅱ


「奥様とお嬢様のこと


愛していらっしゃるのですね」


隣で瑠華が微笑ましい何かを見るような目つきで穏やかに笑みを浮かべ、


『愛』と言う言葉がよっぽど恥ずかしかったのか、村木はその問いに咳払いでごまかした。


「私は神流部長……あなたが会長のジュニアだから、と言うことで娘に勧めたわけじゃない。


あなたは―――


どんなに打たれても、どんなに窮地に陥っても、必ず這い登る―――そんな力強さがあったから


この男なら娘を幸せにしてくれる、と思ったのです」


そんな理由が―――……?


俺はてっきり村木に嫌われてると思ってたが。


だって“この”村木だぜ??未だに信じられないが。


俺がまだ物流管理事業部に居た頃はあの手この手で俺の妨害ばっかり企んでたヤツなのに。


「あなたは女性を軽視して見下す傾向があるようですが、その裏側にあなたの奥様とお嬢様に対する負い目があったと言うのなら納得できます」


瑠華は満足そうに頷き、


「女性は家庭に入ってこそ幸せだと、思っていらしたのでしょう?


働く女性はパートナーの男性が頼りないから、敢え無くそうしているのだ、と」


その言葉に村木は顏をしかめた。どうやら瑠華の言ったことが図星だったようだ。


「でもそれは間違いです」


だが瑠華は畳みかけるように言い放ち


「中にはそう言う、やむを得ない事情で働いている女性も少なくないでしょう。


しかし働くことに、仕事に自分の意義を見つけてそれを邁進するのも一つの道です。


ようは簡単に言ってしまうと仕事が好き、働くことが好き、と言うことです。




幸せは―――



人によって異なります」