Fahrenheit -華氏- Ⅱ



後の祭りとはこのことを言うのだろう。


言ったことを取り消すことをしたかったが、今更言ってしまったことを消すことなんてできない。


それに―――





取り消したくなんてない。





もう一人の俺が心の中で呟く。


俺は、例えぶちまける相手が誰であろうと、この事実を隠したくなんかない。


胸を張って堂々と居たいんだ。


だって恥ずかしいことなんかじゃない。後ろ指刺されるような後ろめたい関係でもない。


愛し合ってる(……と思いたい)んだ。


「はぁ」


村木は分かるように大きなため息を吐き、額に手を置く。


「私は神流部長の……一方的な感情だと思ってました。それもいつものようにほんの気まぐれかと……」


なぬ!?


一方的?それもほんの気まぐれだとぉ!


俺をどんなオトコだと思ってるんだよ!


まぁ……?最初はそうだったかもしれないけど…


「それなら娘を入り込ませることができる、と。我が娘ながら顔かたちは家内に似てまして。


なかなかの器量だと思っておりましたので、あなたもお気に召すかと」


まぁ確かに……陰険村木の娘にしちゃ勿体ないぐらいの美人だったな。


「お言葉ですが、部長……神流部長がお嬢様を気に入られても、お嬢様に気持ちが無かったら意味がないのでは?


それに何故、村木さんは部長をお嬢様に?出世がお望みじゃないのなら、どうして」


と瑠華の淡々とした質問に


「それは親として当然のことでしょう。


娘には幸せになってもらいたい。


何不自由なく。苦労を掛けたくないんですよ」


村木が間を置かず答える。気付いたら村木のグラスも空だった。ただ空虚なグラスの中を見つめて小さく吐息を吐き、お代わりを頼み、ついでに瑠華の分も注文してくれた。「神流部長、あなたは?」と村木に聞かれて「じゃ……焼酎。黒霧ロックで」と何とか答えた。