Fahrenheit -華氏- Ⅱ



それは俺も思った。


「それが私にも謎だ」


村木はまるで難解なパズルに直面したように首を捻り顎に手を置く。


「約束の時間は定時過ぎでしたが割と早い時間で、珍しく私が待ち合わせの為に早く上がろうとすると、どこへ行くのか聞かれましてね」


まぁヤツのあれはコミュニケーションの一つだ。子犬のように纏わりついてご主人に「ねぇ今から何するの?」ってワクワク聞いてるみてーなもん……


と!今までは思ってたがな、あいつは子犬の皮を被ったドーベルマンだ!


賢くて、行動力があって―――そしてあいつの行動には全て意味がある、と。


「私とて後ろ暗いことをしてるつもりはなかったので、懇親会に行く旨を伝えると彼もついていきたいと言い出して。最初は何で?って思いましたよ。


あのときのことを掘り返されれば、今でも『何で?』って思いますけどね。


まぁ二村には期待を寄せている部分があるので、ここで常務に顔を売っておくのも良いかと軽い気持ちで頷いたわけですが」


―――どうゆう


ことだ。



村木がこの場に来て嘘を着いているとは思えなかった。


それに監査役は前述した通りそれ程力を持っていないし、常務の性格も確かに温厚で柔和だ。あの穏やかな表情の下で何かを隠してるのか、疑えばキリがないが、常務と村木とは昔からの仲らしいから、懇親会と言う話も頷ける。


唯一分からないのが二村だ。


あいつの傍に居ながらその行動の意味を村木ですら理解しかねている。