Fahrenheit -華氏- Ⅱ


「で?鴨志田監査役は結局の所、神流派に寝返るつもりなんスか?」


「つまらない派閥争いに辟易していた、と。一旦は退職と言う形を取ったわけですので今は窓際とは言えのんびりしていて楽だとおっしゃってました。


監査役のお子さんたちもそれぞれ独立されて今は立派な会社員だ。もちろん神流グループとは何の縁もゆかりもない関係ない会社なので、それほど神流に固執する理由もない、と。


あ、でも…」


村木は言葉を飲み込んで


「でも?」俺が目を上げると


「監査役は常務のご子息のこと大層羨ましがっておいででしたね」


常務の―――息子?


いたっけ……


流石に俺も重役たちの家族構成まで把握していない。


「常務は確かお嬢さんが三人いらっしゃったはずです。三人ともお嫁に行かれて、今は夫婦二人の生活…と数年前に聞いたのですが…」


瑠華……何でそんなことまで知ってるんだよ。まぁ…親父にでも聞いたんだろうけど。


「村木部長の記憶違いじゃないんですか?」


「……たぶんそうだろうと思いますが」


「話が逸れています。では二村さんは何故その場に同席したのですか?村木部長と瓜生常務の関係は分かりましたし、常務と監査役の仲も理解しようと思えばできます。


けれど解せないのは二村さん、彼です」


瑠華が鋭い視線で、視線以上に鋭い突っ込みをして村木を見据え……いっそ睨む、と言った方が正しいのか質問した。