Fahrenheit -華氏- Ⅱ



どれぐらい待っただろう。


会社の裏駐車場の柱に身を潜ませてタグ・ホイヤーの時計と見比べていると俺が出た十分後に佐々木が出てきた。


佐々木一人だ。きっと佐々木は途中まで一緒に、てな具合で瑠華を誘ったに違いないが、瑠華は上手く言いくるめてまだフロアに残っているのだろう。俺は佐々木に見つからないようにさらに柱の身を寄せた。


それから再び十分後、瑠華からメールが来た。


握ったままの携帯が音もなく震えて、慌てて開くと


“今、マルヒ行動起こしました”と。


瑠華……


コナン・ドイルもアガサ・クリスティも『マルヒ』なんて言葉使ってないよね…


どうやら瑠華の最近のお気に入りは日本で流行っている刑事ドラマみたいだ。俺も時間があればちらっと見る程度だがこれが結構面白かったり。


と、まぁそんなこたぁどーでもいい!


俺は絶対に村木に気づかれるワケには行かない、と言うことで更に奥まって身を潜めヤツの登場を待った。


程なくして村木が出てきて、その横顔をちらりと盗み見るとヤツも緊張してる??っぽい。


従業員ゲートを出た所で、来客用の駐車場で一旦村木は足を止め、尾行に気づかれた!?と一瞬ひやりとしたが、そうではなくヤツは腕時計を再び確認していた。


時間を確かめると、こちらのことを気にもせず村木は歩を速め歩き出す。


“マルヒ、動き出した。今追尾中”と短くメールを瑠華に返信し、


“了解。私も向かいます。要連絡”とすぐさま返信がきた。


まるで刑事になったみたいだが、あくまで『ごっこ』だ。ホンモノには到底近づけない。


瑠華の到着を待ってるつもりはなかった。それは二人が決めたことだから。大体の位置は互いの携帯でメールやりとりで行う。瑠華は場合に寄ればタクシーを使う、と言っていた。村木が向かう『店』で落ち合う約束をした。