Fahrenheit -華氏- Ⅱ



「「昨日?」」


事情を知らない裕二と佐々木が不思議そうにしている。


「あー、いいよ、気にしないで。てかわざわざ買ってきてくれたの?」俺がぎこちなく笑顔を浮かべると


「昨日の帰りに……それより、柏木補佐、腕は大丈夫ですか」と瑠華に視線を向け心配そうに眉を寄せる。


瑠華の白いシンプルなシャツの袖から覗いた白くて細い手首には包帯が巻かれていない。代わりにいかにも高そうな腕時計が巻き付いている。


長方形の枠に上品に輝くダイヤ…?革製の白のベルト。


「大丈夫です、ご心配ありがとうございます」瑠華は無表情に言って、それが瑞野さんにとって本当に『大丈夫』なのか『大丈夫じゃない』のかどちらか分からないと言った感じでちょっと困り顔。


俺らは慣れてるからいいけど、瑞野さんはそれ程接点が無いから分からないんだろうな。


「昨日ちゃんと医者に行って診てもらったらしいけど、何もなかったって」


と嘘をつくと、瑞野さんはほっとしたようだ。


瑠華は俺の嘘に何も突っ込んでこなかった。


「何があったのか知らないけど……柏木さん高そうな時計してるね。どこの時計?」


裕二は昨日何があったのかさほど興味がなさそうで瑠華の手首に目を向け、顎に手を置きしみじみ。


瑠華は腕時計をちょっと手で覆いながら


「これですか?これはハリー…」


「「ハリー」」俺と裕二の言葉が重なり


ハリーポッター…


なんてベタなボケしてる場合じゃない!


「「ハリーウィンストン!?」」


再び俺と裕二の声が重なった。


『まさか…』と言う意味でちらりと俺を見る裕二。その視線に『お前がプレゼントしたのか?』と言う意味だが、俺だって驚いてる。


俺はぶんぶん首を横に振った。俺が買ったんじゃねぇ。そんな無言のやり取りを読んだのか


「数年前に購入したものです、もちろん自分で買いました。昔は結構稼いでいたので」


「ま、まぁ?しゃっちょさんだったワケだしねー…」と裕二は顏を引くつくかせて口を変な風に吊り上げる。


そう言えば裕二は瑠華がFahrenheitの女社長であったこと知ってたな。
(※Fahrenheit参照)ついでに佐々木も。


「はぁー…そんなに高いんですか?」とブランドに疎い佐々木はぽかんとしている。


ハリーって言えばあれだな、ダイヤモンドで有名な。てことはあの台座にびっしり配置されている輝きは全部ダイヤってことか…


「社長……?」瑞野さんが首を傾げる。


そっか…瑞野さんは瑠華の(華麗なる)経歴を知らないんだった。