Fahrenheit -華氏- Ⅱ



.。・*・。..*・ Side Ruka ・*..。・*・。.


『俺、今日菅井さんと飲みに行く約束してるから。電話気づかなったらごめんね』


啓の意外な言葉にびっくりしたのはつい数時間前の話。


啓は―――…菅井さんは、真咲さんと結婚するのだと言っていた。啓は真咲さんがアザールとの取引をどうしても具現化したいがため、自分に近づいたと言っていたけれど、そうじゃない気もする。


何て言うのか……女の勘…的な…


でも“女の勘”ほど当てにならないもの程ない。あくあまでただの『勘』なのだから。そこに何の根拠も証拠もない。


『何か成り行きでね……真咲は会社を休む程の体調不良だから絶対来ないし、今の内に色々探りを入れたい』


との啓の言葉は本心だろう。と言うか本当であってほしい。


今更疑うつもりはないけれど、でも心の中でちょっと不安だったのもある。


「体調不良…ですか……心配ですね」


けれどそれ以上深く考えたくなくて、あたしはそう言って締めくくった。


そう言って納得させようとする自分が居る、もっと言ってしまえばそれで片付けようとしている。


いい加減とは違う。そう思った方が楽な気がしたから。


だからそれ以上は聞かなかった。


そしてあたしと心音は今―――


「へぃ!らっしゃいっ!!」


威勢の良い大将の、これまた耳心地の良い声で出迎えてくれるお店の暖簾をくぐっていた。


一度連れてきてもらってきたことのある、五反田にある―――啓の行きつけの小料理屋さん。


ここの料理が驚く程美味しく、大将がとても楽しかったのを思い出したのは会社で啓と話してた時。


前述した通り、心音は単に刑事ドラマに出てくる小料理屋が気になっただけなのだ。


「あれ?瑠華ちゃんじゃねぇか」


と大将はあたしの顔を見て破顔。


あたしは名乗ってなかったけれど、啓があたしをそう呼んでいたことを覚えててくれたみたいだ。


しかもたった一度来ただけの女性客をきちんと覚えててくれるお店、


好き。