Fahrenheit -華氏- Ⅱ


飲み方をバーテンに聞かれて、「ロックで」と答えると意外なことに菅井さんは「僕はストレートで」と。


色々ビビらされる人だな、このヒトは。結局、俺のグラスは氷の入ったブッカーズのロックと、菅井さんの前には何も入っていない琥珀色の液体が出された。


「美味しい酒はストレートで飲むのが一番ですよ」と爽やかな笑顔を浮かべながら、一気にグラスの半分ほど開けたから、この人こーみえて相当強ぇえな、と感心。


ちょっとかっこいいぜ。


やっぱこうゆうところとか、瑠華みたいだ。


「さっきは失礼なことを申し上げて、すみませんでした」と菅井さんが吐息をつく。


「え?失礼??」


「柏木さんとのことです。愛してると言い切った神流さんに、利害関係を疑ってしまって」


「あ……ああ…」全然、気にしてないし。てか裕二たちにもっとひでぇこと散々言われてるからな、今更そんなことで何かを思ったりはしない。


「あなたも……柏木さんも……“恋愛”と言う非合理的で非生産的なものに真剣になれるとは思えなかったので」


まぁ、少し前までの俺と瑠華には菅井さんの言った通り、確かに恋愛は『非合理的』かつ『非生産的』だったが。


てか何気にこの人すげーよな。爽やかな笑顔でさっきから俺の内側をサラリと当てるんだから。


「お二人とも凄く現実味がある方だと勝手ながら思ってました。


恋愛すると相手の一挙手一投足にどうしても振り回されるわけじゃないですか。そうやって悩んだり立ち止まったり、ときには後ろを振り返ったり。




そうなるのが嫌なんじゃないか、と。煩わしいんじゃないか、と」



琥珀色のグラスをゆらゆら回す菅井さんの横顔を眺めて、俺は―――何となく菅井さんの奥底にあるものを見た気がする。


「それは体験談ですか?それとも以前の“あなた”はあなたが言うように『非合理的』とか『非生産的』だと捉えていた?」


そう聞くと、菅井さんはゆっくりと顔を上げた。


まっすぐに俺を見据え、そのままの視線でグラスを口に含み残りの半分をまた一気に飲み干し


「両方ですよ、両方当たってます」


と、うっすら笑った。