Fahrenheit -華氏- Ⅱ




正直、言うつもりはなかった。けれど、菅井さんが俺に真面目に向き合ってくれたように、


この人に変なもくろみとか何もないことに安心していた、と言うのもある。普段は隠していなきゃいけない関係だから、だからこそ誰かに真実を突如喋りたくなることがある。


俺の発言に、菅井さんは目を開いて固まり、持っていたロックグラスを危うく落としそうになり、それを慌てて持ち直した。


「え……?っっっえ!!!」


初めて聞いた、てか見た。菅井さんがこんなに取り乱したところを。


そんなに意外かよ。まぁ俺も菅井さんと真咲が婚約者同士って知ったときはかなりビビったが。


「そんなに不釣合いですかね?」


ちょっと半目になって、うつろな視線をテーブルの隅で彷徨わせていると


「いや……逆に……お似合い過ぎるな……って」


え!!!?


何それ!!!すっげぇ新鮮なんだけど!!!!そんなこと言われたのはじめてっっ!!


「何て言うか……お二人とも恋愛体質っぽくない気がして……


もしかして人に言えない何か深い利害関係が?例えば……お互いパートナーが居ると思われてると何かと便利……とか…?」


と、菅井さんが疑いのような…或は俺を心配するような複雑な視線で見てきて


そっちかよ!と思わず突っ込みたくなった。


「違いますよ!ちゃんと恋愛してます!」(俺は!瑠華は……たぶん…←ここ、はっきり言えない)


「本気で好きなんです!


愛してるんです!」


大声で言い思わずスツールから立ち上がったあと、はっとなった。来たばかりのときと違って少しばかり増えた客たちやバーテンの視線が俺たちに集まっている。


ちょっと待て……見ようによっちゃ、俺が菅井さんに告白してるように―――見える??


ごほん


俺は咳払いをして、改めて席に戻った。


「彼女のことを―――柏木 瑠華さんを


心の底から愛してます」


言い切って、ぐいとグラスに残ったウィスキーを飲み干した。お代わりを注ぎ入れてくれようとしたバーテンがボトルを掲げ、「次何飲まれます?」と聞いてきた。ボトルが空と言うことだ。


「同じので」と言いかけて「いや、やっぱ違うの。ブッカーズ入れて、俺の名前で」と伝えると、バーテンがちょっと驚いたように目をしばたかせたが、すぐに「かしこまりました」と言って背後の棚に向かう。


「そんな高いのを…?」と菅井さんも目をまばたいている。


「大丈夫です、俺結構稼いでるので」と冗談まじりに笑って、菅井さんも「では御馳走になります」と素直に笑った。