正直、菅井さんがそう言ってくれると思わなかったから、拍子抜け……と言うか、かなりほっとした。
「それとも宗教的な何かの理由で?悩まれていたのですか」と菅井さんはちょっと考え直したように眉を寄せ、俺は慌てて手を振った。
真咲が俺の前に現れなかったら、こんなに悩むこともなかったし。
「いえ、俺の母親はカトリック教ですが、今は居ないし、俺自身はほとんど無宗教と言うか……あまり心神深い方ではないので」
「そんな感じがします」と、ここになって菅井さんはようやく軽口を叩いた。「キリストやブッダを信じるより、渋沢栄一の方がお好きそうですよね」
おいっ!
と、素で突っ込みそうになったが、何とか留めた。
当たってるだけに何も言い返せない。
「でも、今は―――渋沢栄一より大切な人が居ます」
かっこいいのか悪いのか……俺の大真面目な台詞に菅井さんが軽く声を上げて笑った。
渋沢栄一が例え一億人居ようと、“彼女”の存在が無いと意味がない。俺の傍にいてくれなければ、俺だけを見てくれなければ
無意味なんだ。
「ユリシーズ・グラント(※)ですか?」菅井さんは尚も笑う。俺に恋人が居ると言うことをあまり信じていないようだ。こうゆうジョーク言える人結構好きだけど。(※ユリシーズ・S・グラント:アメリカの$50札の肖像画です。アメリカ第18代大統領ですね♪)
「US$でおおよそ$2,500万。日本円に換算すると約35億」
俺は指を二本立ててロックグラスに口を付ける。
同じように菅井さんもウィスキーを口にしながら
「そんなに資産が?」と目を開いている。
「いやいや、俺じゃないっスよ。しかも誰かの資産ではなく、利益換算ですね。
それをたった一回の契約で弾き出す女神です」
「女神……と仰るから、生身の女性で?」
菅井さんは少しだけ怪訝そうに眉を寄せ、同じようにグラスを傾ける。
“生身の女性”ってとこに何だか笑えたが、まぁ俺って見た目がこうだし、自分で言うのもなんだがチャラいし、実際派手に遊んでたから何も言えないが。(それに野球仲間からはバーチャル彼女扱いされてたしね)
「俺の大切な人はでもなく、渋沢栄一でもなくユリシーズ・グラントでもなく
柏木 瑠華
です」



