Fahrenheit -華氏- Ⅱ



俺は、真咲との出会いから終わりまで、何があったのか包み隠さず菅井さんに話した。


前回、瑠華に話した内容とほぼ違いはないが、瑠華にはまだ隠していることがある。それも包み隠さず、菅井さんに語った。いや、包み隠さず、と言うわけにはいかないな……


今度は瑠華に話したこと……真咲が浮気した挙句、100万吹っ掛けて別れた、とは言わずに、俺は俺の罪だけを喋った。


時間にして十分足らずだったが、緊張で喉が干上がっていたせいもある。俺はやたらとウィスキーを口に入れ、卑怯だが酔ってしまった勢いで言えたら、と思ったが、俺の悪い考えを邪魔するように酔いは一向にやってこなかった。


「ちゃんと向き合え」と自分の中の自分がそう囁いているように思える。


全部を話し終えたあと、菅井さんは流石に驚きで目を開いていた。


「………そんな……ことが?」


菅井さんの言葉は弱々しく店のBGMにかき消されそうになったが、俺の耳にはちゃんと届いた。


「………申し訳……ございません。俺は、真咲と―――あなたまで傷つけた。


許してくれ、とは言いません。


いつかちゃんと向き合わなければ…と思っていたのですが、俺が弱くて……いつまでも問題を先延ばしにしてしまい、まさかこんな形でお話することになるとは」


俺は菅井さんに向き合ってきっちりと頭を下げた。


「顏を……上げてください、神流さん」


菅井さんが少し戸惑ったようにおろおろと手をふらふらさせる。


「……正直、意外でしたし、驚きもしました。てっきりあなたが浮気でもしたのか、と勝手に思っていたのですが……すみません、勝手な想像をしていて…」


そっか……菅井さんは菅井さんなりに考えてたんだな。


でも―――浮気の方が100倍…いや、それ以上にマシだ。俺は許されないことをした。





「でも、神流さんが謝ることは何一つないです。


少なくとも、僕は



―――傷ついてなどいない」




菅井さんはそう言い切った。それは決して強がりの類ではなく、心からそう思っているようだった。


ロックグラスを傾けてのんびりと笑い


「別に、法に触れることもしていないし、ましてやあなたは罪人でもない。


まぁ強いて言うのなら、神でもなない、と言いましょうか。


一人の“若い……”いや……“幼い青年”だったんです。


僕がもし神流さんと同じ状況で同じ立場だったとしても、同じ結論を下していたでしょう。


あなたはまるで大罪を犯した罪びとのような顏をされていますが、誰しもその状況下ならそうしていたでしょう」


と呟いた。