菅井さんは、真咲から妊娠のこと打ち明かされたとき、本当に嬉しかったのだろう。だから尚更真咲の様子が心配な筈だ。
「もしかして流産するかも……って、満羽が泣いてて……正直、僕は彼女を宥めるぐらいしかできなくて……男ってこうゆうとき、ホントに頼りないですよね……
でも、産婦人科の先生の話に寄れば、妊娠初期の妊婦さんには良くある症状らしく、その言葉だけが唯一の救いですが……」
菅井さんは眉を寄せてちょっとだけため息。
「真咲は……生まれてくる子のことを楽しみにしているんですね」
良かった。
―――それなら、良かった。
あの保留にされた婚姻届けの真意を俺は図れなかったが、少なくとも真咲は新し命を受け入れる準備をして、そしてその命に愛を注いでいるようだ。
「このこと、御社の社員の方々は…?」
俺が気になっていたことを聞くと、菅井さんはゆるゆると首を振った。
「誰も知りませんし、気づかれてないと思います」
まぁ、俺たち(いや瑠華は違うけど)と違って徹底してそうだからな。当然ながら、俺も菅井さんと真咲の関係に気づかなかった。
「お互い外回りの営業でコンビを組んでるので、知られても何も良いことがないかと」
「そうですね。その考えが賢明です」俺はロックグラスを傾けると、一口口に付けた。
はぁ
小さく吐息を付き、俺はグラスをテーブルに置くと、顏を上げて菅井さんを改めて見据えた。
菅井さんが不思議そうに目をまばたく。
「こうゆう状況なので……いえ、そう言った状況だから尚更―――
話さないといけない、と思いました。俺と真咲に何があったのか」
俺は、
覚悟を決めた。
真咲が俺に何を仕掛けてこようとしているのか真意を知りたかったが、目的はそのためじゃなく、ただこの実直で、心優しい人に―――
ちゃんと向かい合いたかった。



