Fahrenheit -華氏- Ⅱ


俺は早々に一杯目のビールを飲み干し、菅井さんがキープしているというウィスキーを頂戴することになった。


さほど高そうなウィスキーではなかったが、国産の名の知れたものだ。


丸くカットされたアイス(氷)のみでロックでいただくことにした。それは想像した以上にまろやかで芳醇な味わいがした。菅井さんも同じ飲み方だ。


「意外ですね。僕はてっきり菅井さんはあまり飲めないクチかと」


「好きですよ?ただあまり強くはありませんが」と菅井さんは苦笑い。「神流さんはお強そうですね」


「いやいや……柏木に比べたら僕なんて……」と言い出しておいてなんだが、俺は話題を変えるように


「ところで、真咲の具合は…」と話を戻した。


「……ご心配ありがとうございます。…少し、出血があったようで。産婦人科の先生には無理をしないように、と言われているので休みを取っている所です。


一応、心音は聞こえるので、この場を乗り越えたら安定するかと…」


「そう……なんですか…」菅井さんの言葉にちょっとほっとした。


「今は6週目なんです。先生の話に寄るとこの時が割と一番体の変化を感じる時期だとか……


妊娠したことを打ち明けられる前、確かに満羽は情緒不安定で、すぐ怒ったり、かと思えば急に泣きだしたり…とか。仕事もあまり順調に行ってなかったので、そのせいかと思っていたのですが、どうやら違ったようで。


最初、打ち明けられたときは……もう言葉も出ない程びっくりして…」


そりゃそうだよな。計画してなきゃ尚更だ。


「でも……」菅井さんはロックグラスを両手で包み込み、僅かに目を伏せると口元に淡い笑みを浮かべる。




「凄く……凄く、嬉しかった。まるで、この世の幸せを独り占めしたような―――」




大げさですね、ははっ


と菅井さんは恥ずかしそうに付け加えたが、俺―――


真咲が選んだ人が、俺ではなく、この人で





本当に良かった





この瞬間、心の中で本気でそう思ったのだ。