それはなんともなしにただ見ていただけだった。

中学の教室はプレハブだった。暑くて寒い最悪な環境。


唯一いいのは見晴らし…。と言っても校庭と桜と松林だけど。


ただ校庭をひたすら見ていただけだった。


陸上部がハードルの練習をしている。


その中にただずっと走りに走ってがんばってる人がいた。


あぁがんばってるなぁ。汗が似合う人だ。てな程度にしか思ってなかった。


ただいつも窓から見ていただけ。


友人に誰か気になる人あるのか?と聞かれ、


気になるというか…。がんばってるなぁて思う人ならいる。


誰?


あの人。と指さした。


キイ先輩か…。ふーん。

キイていうんだ。


名前すら知らなかった陸上部の先輩だった。


卒業式…。見るものがなくなった窓から。皆第2ボタン獲得にいそがしい。

友人は行かないのか?と聞いてきた。


だって、人気者だし。知らなかったけど彼女もいるらしいし。私のことを知らないと思うし。


行ってみなよ。と一言。

行ってみた。


本人が教室から出てきた。


あの…。ぼっボタンもらえますか?


やっとのことで言って見たものの、ボタンがなかった。見ればわかるのに。シャツのボタンは全てなかった。


ネクタイでもいい?どうせ使わないから…。


とぽんっと渡され、
ありがとうございました!と走りさった。


友人にネクタイをもらったと報告。


あんたってすごいね。と驚いたような呆れたような言葉にやや沈む。


だって、ボタンからネクタイになってしまった…から。


半年くらいたって夏あたり、田んぼ道を散歩していた。


自転車に乗るキイ先輩がいた。通り過ぎた。

あっと思って見ていただけ。


気づかないと思ってたのに。走り過ぎたら、途中…振り返って私を見た。

一本道には二人しかいない。ただ振り返っただけかもしれない。


それきり会うことはなかった。


プレハブの窓から見ていただけだから…。