多江さんが自殺する理由がわからない。

その時、ドアがノックされた。

入って来たのは達郎兄ちゃん。

安堵の気持ちが広がったんだろう。

達郎兄ちゃんの顔を見たとたん、涙腺が一気にゆるんだ。

「達郎兄ちゃ…」

「泣くな、カホ」

達郎兄ちゃんの右手が伸びる。

案の定、あたしの鼻をつまんだ。

でも左手で、ハンカチを差し出してくれた。

あたしはハンカチを受け取ると、涙をふいた。

「ついでに鼻水もぬぐっておけ」

「最低」

あたしは達郎兄ちゃんをにらみつけた。

でもおかげで、涙は止まった。

「ニュースを見て、飛んできたんだ」

とてもそうは見えない口調で、達郎兄ちゃんは言った。

「ここに来る前に、カホの家にも行った」

「お母さん、何か言ってた?」

「カホの心配してた。よろしくお願いと頭を下げられた」

だったら鼻つまむなよ。

「しかし未だに信じられないな」

多江さんが飛び降りた事を言っているのだろう。