「警察で話した事を、そのままお話しすればいいんでしょうか」

婦長さんは達郎兄ちゃんを見て言った。

口調は穏やかだったが、目には不審の色がたっぷりだった。

そりゃそうだろうなぁ。

警察でもマスコミでもない人間が、事件の話を聞きに来るんだもん。

「大変でしょうに、お手数をおかけして申し訳ありません」

達郎兄ちゃんは丁寧に頭を下げた。

あたしも車椅子に座ったまま、それにならう。

身内である多江さんを亡くしたというのに、休めないなんて、ナースって大変だな。

「急なことで、まったく引き継ぎができてないものですから」

婦長さんはそう言いながら、達郎兄ちゃんに椅子を勧めた。

あたしは達郎兄ちゃんが座った椅子の横に、ぴったりと車椅子をつけた。

すると、婦長さんと目が合った。

「あの、旭さんも?」

婦長さんの目に浮かんだ不審の色が、ますます濃くなる。

「彼女も多江さんの最期を知りたがっています」