ぱしん、と軽い音を立て。

 僕の頬にある手を払えば。

 トシキは、大げさに肩をすくめてささやいた。

「だから、そんな目で睨むなよ。
 オレは、ファンだって、言ってるだろ?
 ただもう一度。
 あんたの『椿姫』が見たいだけで……」

「僕は、絶対に過去の踊りは、踊らない!」

 それは、決別したはずの過去を振り返らないためにも。

 今の生活が、幸せで……だけども、儚いものだって、僕は知ってる。

 ここで、過去のダンスを簡単に踊ってしまったら。

 ふと。

 昔を懐かしんで……そのまま。

 また、いつの間にか。

 暴力の世界に帰って行きたくなるなんてことが、全く無いとは、言いきれなかったから。

 そんな僕の拒否を、トシキは小さく笑った。

「あんた。
 男のクセにムキになると可愛いな。
 どうかな?
 オレは、ますますあんたの『椿姫』を見たくなったぞ?
 いいか?
 舞台の上かどうか、は、この際まあ、いいや。
 オレは、この二日間の間に最低一回はどんな形であれ。
 あんたに『椿姫』を踊らせてみせるからな!!」