なんて、そう言っても。

 ヤツは、ちっとも聞きやしねぇ。

 べぇ、と思いっきり舌を出すと言いやがった。

「ハインリヒは、ジジくさくなるから、絶対、伯父さんなんて、呼ばれたくないってさ!」

 そしてガキは、人差し指を一本、突き立てると、ちっちっちと振った。

「螢は、ハインリヒの愛人のクセに、判ってないなぁ~~
 ちゃんとうまく行ってんの?
 空気読めねぇと、いつか、捨てられるぜ?」

「……てめぇ!」

 ……大人気ないと、言うヤツは、言え!

 一番、言われたくない所を、指摘され、僕は相当頭に来てた。

 もう一度首根っこを捕まえて振ってやろうと、伸ばした僕の手をかいくぐり。

 ガキは、げらげらと笑いながら、言いやがった。

「てめぇ、なんて言うなよ!
 俺の名前は、早瀬倉 直斗(はせくら なおと)だ!
 いい加減覚えて、名前を呼べよ!
 こっちは、すぐに覚えて、呼んでやってるのにさぁ。
 螢ちゃん」

「こん、の……っ!
 クソガキ!」

 ……大の大人だったら、いい。

 腹を立てれば。

 殴るなり、蹴るなりして、止めればいいんだ。

 けれども。

 僕の目の前にいる相手は、小学校にも入ってないガキで。

 しかも。

 口調は超達者でも。

 見た目はひ弱そうなチビだった。

 下手に掴むと、パキッと、折れそうで。

 掴んで振っても大丈夫そうな場所は、限られてるから、そこを狙うと、難しい。

 それに、さすが、ハニーの甥。

 瞳の色は、黒くても。

 しっかり異国の血が混じり、日本人離れしているキレイな顔つきが、ハニーにそっくりだ。

 そんな、僕の愛しい人に良く似たヤツを、積極的に、傷つけられるはずもなく。

 どうしても緩む僕の攻撃をかわす、直斗のゲラゲラ笑いが、ひどくなった。

「くそ!
 遊んでんじゃないぞ!」