「……女装は、嫌だって言ったクセに。
 結局、ショールを巻いて、ファルダ(スカート)を履いてるんじゃないか。
 ……やっぱり『椿姫』を……」

「却下」

 しつこいトシキのリクエストを、ぴしっと断って、僕は、曲をトケ(ギター)に要求する。

「女装が嫌だとは、一言も言ってないだろ?
 僕の踊る曲は……フラメンコの『ガロティン』だ」






 更衣室で明日の衣装に着替え。

 スタジオに出たとたん。

 僕を見た直斗が、わぁ……と、小さく息を呑んだ。

「螢が化けた~~」

 キレイだ、と歓声を上げるその声が、直斗にしては、素直に聞こえる。

 僕は気を良くしてふふん、と鼻で笑い。

 ヤツの髪をクシャクシャとかき混ぜた。

 ふ、と見れば、結花の子どもも、目をまん丸にして僕を眺めてる。

 どうやら、今度は逃げ出す気は、無いようだった。

 やれやれと、こっそりため息をつけば。

 加月姉妹が、手を叩きながら近寄って来た。

 普段、二人ともフラメンコで手拍子(パルマ)をしているもんだから、拍手がかなりうるさい。

 けれども、彼女達の声は、更に大きかった。

「螢君すご~~い」

「さすが、元プロよね~~
 お化粧まで自分で出来て、しかも上手いなんて!」

「……舞台用の化粧でも、帽子を被って踊るから、本当は、これでもかなり地味なんだけど……」

 なんて、言っているそばから。

 今度はスタジオの扉が、次々と開く。

 そして、若干、とうのたった女性達が、僕を取り囲んで、黄色い声をあげた。

 そろそろ、群舞を担当する人々が、入って来る時間だった。

 だいたい、ご近所の主婦皆さんか、ごく普通のOLさん達で構成された踊り手だ。

 夜は居酒屋。

 昼間~夕方までフラメンコ教室を開いている、店の専属講師の、里佳の生徒達だ。