……あれ?




 肉食獣の息子だから、どんな猛獣なんだろう?

 ……と、思ったのに。

 その子供は、まるで。

 人見知りをするように、トシキの足に張り付いた。

 そして。

「おい、挨拶しろ」

 なんて、トシキに促され。

 ようやく彼は、蚊の鳴くような声を出した。

「ぼくの名前は、加月 俊介(かつき しゅんすけ)です」

 ……どうやら、名前を言うのが、精一杯らしい。

 見た目は、直斗と同じくらいなのに、口と頭が回り過ぎる、クソ生意気なあいつとは、エラい違いだ。

 どっちが、年相応か、なんて、よく判らないけれど。

 僕の方も、膝を折り。

 目線を合わせて、挨拶を返そうとしたら。

 彼は、真っ青になったかと思うと。

 ぴゅ~

 と、直斗の着替えを手伝っている結花に向かって、走って行ってしまった。

 それを見て、トシキがガシガシと頭を掻く。

「悪い。
 普段は、もう少しぐらい、愛想が良いはずなんだが。
 ……どうやら、あんたが怖い、らしい」

「……え?」

 ワケが判らず、首をかしげる僕に。

 トシキはずい、と近寄ると小声で聞いて来た。

「……正直言って、オレもあんたが怖い。
 底しれない『何か』がある気がして、さっきから奥歯が鳴りっぱなしだ。
 見た目、すごく華奢でキレイだから、かな?
 女どもと、あんたの息子は気がついてないみたいだが……
 俊介は、本当に危険なヤツに対しては、敏感だし。
 オレはこういう感じに慣れている」

「……」

「あんた、実はケンカが強いだろ?
 しかも、ちゃんと審判のいる『スポーツ』とか『格闘技』ってんじゃなく。
 ルール無用で。
 場合によっては。
 相手を殺してもいいぐらいの良い勢いでやる、実戦に慣れてないか?」