「一人だけ正義でいられると思うなよ?」
妖しく笑うレックス。
その瞳をエリックは恐れた。
「お前も俺となんら変わらない。その手を真っ赤に染めた罪深き人間だ」
「……っ」
「せいぜい十字架背負いながら民衆にもてはやされてろ。お前にはそんな罰が似合いだ」
「……レックス」
エリックが言葉を紡ぐより先に、またレックスが格子越しに手を伸ばした。
襟をつかみ、引き寄せる。間近でギロリと睨みつけた。
「あと一つ、言っておく」
「……」
「あの子には手を出すな。……もうあの子はフランチェスカじゃない」
「……っ」
睨むその眼は強くエリックを突き刺す。
娘を守るための、最期の脅迫。
「あの子を捕まえて処刑でもしてみろ。女王を処刑しましたが人違いでしたって、民衆にどう言い訳できる? 俺を処刑せずあの子を捕まえようとしても無駄だ。俺が何としてでも止めてやる」
「…………どうして」
「あ?」
「どうしてそこまでしてあの女王を守る? 民を苦しめる暴君だろう……」
そうだ。何も知らない人間からしてみれば、フランチェスカは暴君に映る。
だが、レックスにとっては違う。
彼女はレックスにとってたった一人の娘。唯それだけだ。
「お前は何も知らなくていい。暴君フランチェスカはこの俺だ。俺がフランチェスカとして死ぬ。それでいいだろう?」
「…………」
頷くしかなかった。
目の前にいる女王が本物じゃない事は確信を持っている。
だが、ここで彼の言う通りにしなければならないと思った。
ただ、その時の彼の目が恐かったから。
まっすぐこちらを見据える目は、一人の人間を見る目じゃなかった。
人の死も、人の涙も、人の血も、平然と見据える目だ。
かつて、エリックの父が恐れた目だ。
その眼にエリックも恐れ、
そして、言われるままに、レックスを火あぶりにした。
遺体を燃やしてしまえば調べようがない。
死んだ女王が本当に女王なのか、調べるすべはもうないのだ。
残された骨と首だけで、男と女を判別することはできない。
こうして、女王フランチェスカは死んだ。



