「そんなの、いやよ! 貴方だけを置いて……」

「……わかってください」

女王がこれから何をされるかもうわかっている。
彼が女王として残れば、彼は……。


「女王は私よ……! 私がフランチェスカなのよ?」

「違う。貴方は……おまえはフランチェスカじゃない」

彼女の両肩を、レックスはつかむ。
そして彼女に言葉を紡いだ。


「お前はアリス。……お前はただの町娘のアリスだ」

「アリス……?」

「お前の本当の名前だ……」

レックスの目に涙がにじんでいる。
アリスは、彼の娘の名前。
彼女が女王になる前の、本当の名前。


「お前はもう女王じゃない。一人の人間として、アリスとして……生き直すんだ」

「そんなこと……!」

言葉を言いきる前に、レックスは彼女を強く抱きしめた。


「生きてくれ……とにかく、生きてくれ……」

震える声で彼は言った。
彼は彼女が生きることだけを望んでいる。


「どうして……こんなこと……」

「お前が、俺の娘だからだ……」

強くレックスは抱きしめる。
頬に涙が伝い落ちる。

ただ娘に生きてほしい。

たったそれだけのことで、彼は女王になった。