彼女は自分の胸にナイフを引きこんだ。
赤い血がナイフを伝って落ちる。
最期に彼女は笑っていた。穏やかなほほ笑みを浮かべていた。
「マリア……様」
口からこぼれる名前。
自分は彼女を殺した。
「お嬢様……、お嬢様……っ」
倒れた彼女に呼び掛ける。
彼女を抱きしめる。体温が失われていくのを感じた。
「お嬢様……ッ! 目をあけてください! お嬢様ッ!」
彼女は二度と目を開けない。
二度と微笑みかけてくれない。
「頼む……死ぬなッ! 死なないでくれッ!」
彼女の冷たい体。
レックスの腕の中で、マリアは死んだ。
「生きてくれ……ッ。目をあけてくれ……」
何度も何度も叫ぶ。
レックスの眼には妻が死んだ光景が映っていた。
だがあの時と決定的に違うのは、
自分が彼女を殺したという事。
「うわぁぁあああぁああああッ!」
声を上げ、レックスは泣いた。
そして内乱は起こり、王族を失った国は互いに互いを傷つけあった。
ひとつの国が内部で争い、国は自滅した。
レックスがノワール王国に戻った二週間後の出来事だ。