それからはマリアと昔話に花を咲かせていた。
楽しげに笑うマリアの姿に、ようやく昔の幼い面影が見え始めた。
「そんな事、あったかしら?」
「ございましたよ。よく覚えています」
声を出して笑う分には年頃の娘と何一つ変わらない。
彼女が幼い時には自分の娘と重ねていた時もあった。
少しずつ、動揺が懐かしさに代わり、自然と会話を楽しめるようになってきていた。
そして一通り昔を話し終えたら、そのままレックスは仕事に戻った。
空いた料理の皿を下げ、お酒を運ぶ。
だが、また誰かに呼びとめられた。
「エリック殿下、何か?」
呼びとめたのはエリックだ。
すこしこちらを見据え、口ごもっている。
「……さっきの彼女は?」
「さっき……。ああ、マリア様の事ですね」
「マリア?」
しきりに彼女の事を気にしている風だった。
疑問に思いつつも、彼女は隣国の姫であることを話す。
「そうか……」
「どうかなされたんですか?」
「いや、その……やけに親しげに話していたから、君の恋人かと」
「まさか!」
思わず飛び出た言葉に笑うレックス。
だが内心では少し焦っている。そんな風に周りから見えていたのだろうか。
やはりマリアとエルザを重ねて話していたのではないか。
「私みたいなものに、マリア様のような素晴らしい人が恋人になるなんてありえませんよ」
こうして冗談にして笑うしか焦りを隠す事は出来なかった。
それでもエリックは納得していないようだったが、そのまま大人しく引き下がった。
そこでレックスはもう一度、仕事へと戻っていく。
その後姿を、エリックはじっと睨みつけていた。
敵意に満ちた目で、じっと……。



