魔女と呼ばれた娘



それから月日は流れ、フランチェスカは十八歳になった。
成人を目前に控えいよいよ結婚も間近。

しかしそれでも傀儡政治は続けられていた。
国政に触れる機会がなく、すべてを家臣たちに一任していた。
そうするように仕向けられていた。



そして今は、両国の結婚前祝いのパーティが開かれた。
各国の要人や貴族が集まり、優雅な時を過ごす。


その様子を傍らでレックスは見ていた。
胸中ではかなり貴族連中に毒を吐いているが、表向きはいたって笑顔だ。


フランチェスカも、エリックのそばで嬉しそうに微笑んでいる。
和やかに時間は過ぎて行った。

配膳に何やらで動き回るレックス。
その最中にも様々な人間に目を凝らし、様子を探る。
婚約に反対する人間が、この会を黙って見過ごすとは思えなかったから。


その時、背後から声をかけられた。

「レックス?」

突然の事に肩が跳ね上がる。そして急いで振り返った。
そこには赤いドレスに身を包んだ美女がこちらをみて微笑んでいた。

「……」

しばらくの間、レックスは呆けていた。
美女は首をかしげ、歩み寄る。

「レックス、どうかした? もしかして……分からない……とか?」

「え、あ、いえ……」

明らかに動揺を隠せないレックス。

彼女はノワール王国の隣に位置する小さな属国の王女だ。
それは頭では理解している。この会に参加していることも知っている。
それに彼女の国の王族に仕えていた時期がある。

しかし、今の彼女をみて、一番に連想するのは
幼いころの彼女ではない。

昔に自分の腕の中で冷たくなった妻だ。


彼女は、マリアは、

あまりにも妻のエルザに似てしまっていた。