後日のこと。
フレイル国の王の下に、使者が現れた。

その使者はたった一人。
単身で敵国に乗り込んできたのだ。


「そなたの名は?」

「レックスと申します。先日の停戦の件について参りました」

レックスがわざわざやってきた。
だがこれはフランチェスカの使者としてではなく、完全なレックスの独断。
もちろん、使者なんかではなく、停戦の申し出についての答えなどまだでていない。


妙に思いつつも、国王はレックスの言葉を促す。

「停戦などというまどろっこしいことをせずに、もっと簡単に戦争を終わらせましょう」

平静に、すらすらとレックスは言葉を紡ぐ。
それはどれほどその場の空気を変えるのかを分かった上で、笑顔を崩さずに。

「それはどういうことだね?」


「国など差し上げます」


にっこりと笑ったまま、レックスは言った。
その場の空気が凍りつき、そしてどよめきが走る。

「フランチェスカ女王は大変貴国の第一王子エリック殿下を気にいっておられます。つきましては、殿下にぜひ女王を妻として迎え入れて頂きたいのです」

周りが固まっている事をよそに話を勝手に進めるレックス。

「勿論、わが国で反対する動きはあるようですが、そんな物はねじ伏せますからご安心を」

物騒な事まで言い出した。


「ちょ、ちょっと待ってくれ」

さすがに国王も言葉をはさんだ。

「つまり君は、祖国を売るということなのか?」

「そうですよ」

臆面もなく言い切った。
笑顔で。