「……すまなかった」
彼が話し終えた直後、王は頭を下げた。
一国の王が一介の使用人に頭を下げた。
「私は罪を犯した。君から大切な物をすべて奪い、復讐という罪まで犯させてしまった。本当にすまない」
頭を下げても、王は許してくれとは言わなかった。
そんな彼に歩み寄り、レックスは肩に手を置く。
「頭を上げてください陛下。赤子交換の関係者の名前を言ってください」
その声は甘く、そして底知れない恐ろしさを感じさせた。
だが、王はかたくなに頭を上げない。
「それは、明かせぬ。仮にも私は王だ。家臣たちを売るようなことはできない」
「……そう。ならば……」
肩に置かれた手が離れる。
ゆっくりと王は頭を上げた。
「……もう言わなくて結構です。自分で調べることに致します」
口調はいつしか普段の物に戻り、表情もいつものレックスに戻っていた。
それでも、どこか恐ろしい闇を感じさせる。
「ただのボンクラじゃなかったようですね。……あの子を曲がりなりにも愛してくれていたようですし。……感謝はしていますよ」
そう言ってレックスは笑う。
許すつもりはない。ただそれでも、娘を愛してくれた事に敬意を払い、感謝を感じていた。
「……あなたの妻を殺したのは俺です。それは変わらない。……誠に、申し訳ございません」
そして、改めて王妃の殺害を詫びた。
たとえ憎い相手でも、どんなに憎い相手でも、レックスはこの男の妻を殺した。
妻を殺された痛みは知っている。
それはどんな理由があろうと、復讐を思い立たせる。
人の心を浸食する確かな痛み。
人の人生を狂わせる確かな罪。
それでも、この王は復讐を思い立つ事はなかった。
そして妻を殺した男に頭まで下げた。
その点において、この男は自分よりも人間ができているのだろう。
レックスは敬意を持ち、そして頭を下げた。
許しては欲しくない。ただこれはけじめなのだ。



