我が家に帰るのにこんなに緊張した事なんてあっただろうか。

 答えは否。
 ある訳がない。

 しかし今は家の前に居るというのに、なかなかドアを開けられずにいた。
 冷や汗が頬を伝う。

「あ〜っ、くそ……」

 家の前で立ち往生して早三分。
 何だか苛ついてきた。
 情けない自分に。

 別に家のドアを開けた途端に“何か”に襲われる、なんてないだろう。

 そうは思っても、やはり……。

 いや! どうせ家には母さんも居るのだから、いつも通りにただいまって言って入れば大丈夫だ!!

 よし、いっせーので! で入ろう。


 ……いっせーので!!


 俺はドアを開けた。


 神経を研ぎ澄ます。
 注意深く玄関の周りを見渡す。

 ……よし、大丈夫だ。
 何もないじゃないか。

 三分間も立ち往生していた自分が急に馬鹿らしくなった。

 はぁ……、無駄に疲れた。

「ただいまー……」

 返事は無い。

 あれ?
 いつもなら『おかえり』って返事が返ってくるのに……。

「出掛けてるのかな」

 と呟いてみたが、母さんの靴はしっかりある。

 あれ――――?

 ……

 ……………!!

 もしかして――


 嫌な予感がする!!!

 俺は階段を駆け上がり、自分の部屋へ向かった……。