南とバスで会ったあの日は、家庭教師として桜さんの家を訪ねる予定だった。

俺は駅前の本屋で買いたいものがあって、それを買ったあとバスで桜さんの家に向かった。

バスで初めて見た時、すげぇかわいい子がいんなー、と思った。

女の子は決して派手ではないけど、遠目で見ても控えめでかわいらしい雰囲気を纏っていた。

めちゃくちゃタイプだったし、どうにか声をかけらんねえかな、と心の中で考えていた。



意識をその女の子に向けながらバスに揺られていると、女の子が俯いて震えていることに気がついた。

俺と女の子の間にはサラリーマン風のおじさんが立っている。

女の子は体の正面をこちらに向けているが、スクール鞄を強く抱き込んで、震えている。



まさか……。

まさか、女の子の後ろに立っている誰かが、痴漢してるのか?



そう考え、誰がしてんのか突き止めてやろうと思ったけど、無理だった。

満員のバス内、ぎゅうぎゅうなこの状態で、すぐそばにいるわけじゃない女の子の痴漢を捕まえるのは難しい。