それが、鬨の声と言うものだった。


「いかん!」


さっきの男の人が叫び、そのままこっちに向ってきた。

そしてあっという間に馬上に引き上げられた。


「わっ」

「しっかり、おつかまり下さい」


返事をする余裕さえない。

馬は轟音とは逆の方向へ走ってゆく。

疑問の声も制止の声も、掛けられないほどの緊迫。


初めて分かった。


これは、戦だ。

戦争だ。


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鬨の声が響き、己の油断が赦せなかった。

たった一小隊を連れた今の自分では、簡単に討ち取られてしまうだろう。

しかも腕の中には荷物もある。


「戻れ! 合流しろ!」

「陛下、殿(しんがり)は我らが! お早く!」


ここまで供をしてくれた小隊長に目で礼し、俺は馬首を取って返した。

腕の中の娘は何も言わない。

白金の髪が、闇夜に浮かび上がる。


走り抜けながら、娘を抱く腕を強めた。

震えていた。


(天幕に・・・いや、間に合わん)


どうすればいい。

絶体絶命だった。