裸足のシンデレラ

* * *


「おーこっちこっち!!」


大きく私に向かって手を振る塾講師。
…ホントはこんなのバレたらヤバいということも知ってる。
それでも…好奇心には勝てない。


「私服、可愛いじゃん。」

「社交辞令?」

「本気でそう言ってんの。ったく可愛くねぇなー。」

「可愛いって言ったり可愛くないって言ったり…言動がコロコロ変わる人間は嫌いよ。」

「じょーだんだって。お前は可愛い。」

「……。」


そういう言葉はやめてほしい。慣れていないんだから。


「あ、照れた?いいなーそういう顔。そういうの撮りてぇ。」

「…モデルが私なんかでいいの?
表情も豊かじゃないし、ポーズなんて取れないわよ。」

「ポーズなんかいらねぇもん。
さーて出発すっかな。」

「え?どこ行くの?」

「この辺じゃマズイだろ。俺は別に辞めてもいいから構わねぇけど、お前の立場とかさー。
つーわけで少し遠出。」


車が走り出した。
初めて聞く洋楽の流れる車内。
右半身が少しだけ、ほんの少しだけ緊張してるのが自分でも分かる。

よく考えれば、危ないことをしている。
得体の知れない男と二人で車に乗るなんて、犯されても何の文句も言えない。
ひょこひょこと付いて行った自分が悪い。

でもこの人は違う。そういうんじゃない。
あの電話で、直感的にそう思ったのは確か。