裸足のシンデレラ

「今はそういう気分じゃないの。」


『むしろあなたの英語をもう少し聞いていたかったくらいよ。』
そう言ったら変に喜ぶような気がするから言わない。


カサッ…
一枚の小さなメモ用紙がこっそりと渡された。


「里穂に頼みたいことがあるんだ。
だからケータイ番号書いてくんね?」

「…そういうの、やっちゃダメなんじゃないの?」

「お前が言わなきゃバレない。」

「この会話聞かれてる時点でダメな気がするんだけど。」

「だいじょーぶ。あいつらなんか喋りながらやってるし。
こんな隅っこにいるの里穂だけだし。」

「クビになってもいいの?」

「実際構わねぇ。でもクビになる前にどうしてもお前に頼みたいことがあるんだ。
でもそれをこの塾内で言うのはハイリスク。
つーわけでこっそり言いたいから頼むわ、それ。」

「…頼みをきくかどうかは別問題よ。」

「分かってる。」

「センセー!!これ分かんないんだけど!!」

「どこどこー?」


…呑気な声を出しながら女生徒の方に近付く彼。
全く意味が分からない。
個人情報の交換は禁止されているし、そもそも頼みたいことって何?
私にモノを頼むなんて、本当に言い根性しているわ、こいつ。
そう思いながらも、メモを滑るペンは止まらない。