しばらくの間、菜都と2人でしみじみとお酒を飲む。
『幸せ』という、私の口から出た言葉で良しとしたのか、あれ以上ずかずかと深入りすることもない。
菜都とは、そういう女だ。
親しき仲にも礼儀あり、と、踏み込んでもいい場所、踏み込まなきゃいけない場所、絶対な踏み込んではいけない場所、踏み込んではいけないタイミング、それらを慮り、忖度してくれる。
どれだけ賢くても、それができない人は世の中に溢れている。
その人達の全てを否定するわけではないけれど、それを“当たり前”としてやってのける菜都のことを、心から尊敬する。
話題は、私の近況に、拓との生活、菜都の近況、お互いの仕事の話と、学生時代の思い出話。
会話がきっかけとなり、次の話題へ、次の話題へと移っていく。
話しに花を咲かせていると、遠くから菜都を呼ぶ声が上がった。

「なーつー!ちょっと来てー!」

振り向くとさっき一緒に騒いでいた女の子たちが別のテーブルで男の子たちと騒いでいた。
話しに夢中になっている間に、移動していたらしい。
全然気づかなかった。
ちょうど話のキリがついたところだったので、菜都はこちらを向いて「じゃ、行って来るね」そう言い残して去って行った。